
先日、ふと昔のことを思い出して、ある喫茶店を訪ねました。
そこは、私が新社会人になったばかりの頃に帰り道に立ち寄っていた場所。
慣れない仕事に緊張しながら、あたたかいコーヒーにほっと一息ついていたあの頃…。それから、いつの間にか40年が経っていました。
ドアの小さなベルが鳴る音も、コーヒーの香りも、あの頃とほとんど変わっていませんでした。
まるで時間が巻き戻ったような気持ちになりながら、私は席に座り、ゆっくりと一杯のコーヒーを味わいました。
私はこれまで、金融の世界で40年、お客様と歩んできました。
その中で、何度も大きな時代の波を経験してきました。
社会人になって間もない頃に起きた「プラザ合意」(1985年)では、急激な円高が進み、海外との取引に関わる金融現場は大混乱。
そしてその数年後、「ブラックマンデー」(1987年)で世界の株式市場が一晩で崩れた時の衝撃は、今でも忘れられません。
好景気に沸いたバブル期には、まさに“土地神話”が語られ、不動産も株も上がる時代。
でもその熱狂は長く続かず、「バブル崩壊」(1991年頃)で多くの人が苦しい時期を迎えました。
その後の「失われた10年」では、銀行の統廃合や不良債権処理の渦中で、金融の現場も毎日が模索の日々。その中で当時の「アリコジャパン」に一大決心をして転職しました。
2001年のアメリカ同時多発テロでは、市場が一瞬で冷え込み、世界中が不安に包まれました。
さらに「リーマンショック」(2008年)では、“大きすぎて潰れない”とされた金融機関が崩れ、信用そのものが揺らぐ大変貴重な経験もしました。
そして、記憶に新しい「東日本大震災」(2011年)や、「コロナショック」(2020年)では、金融という仕組みが「人の生活にどう寄り添えるか」が改めて問われました。
こうして振り返ると、本当に色々なことがありました。
でも、ひとつだけ変わらなかったのは、「お客様の不安に耳を傾け、共に考える」という姿勢です。
新社会人あの頃の私の初任給は13万円弱。
今では商社をはじめ、初任給が30万円を超える企業も珍しくなくなりました。
でも、手取りが少なくても、一生懸命働いて、少しずつできることが増えていく日々は、なによりも嬉しかった記憶です。
喫茶店での一杯のコーヒーは、当時の私にとって「自分を取り戻す時間」でした。